在庫管理のシステム化によって業績が改善したA社の場合
小売業や製造業、介護施設や医療現場など、中小企業の現場の共通の課題として、在庫管理があげられます。在庫がなければ製造業はすぐに生産に入れないし、小売業であれば品切れによって販売機会が失われます。施設や病院では欠品が直接事故につながりかねません。
そのため、どうしても必要に備えて、多め多めに発注しがちになってしまう、という課題を抱えています。
部品メーカーであるA社も、まさにそうでした。原材料が不足し生産ラインが止まることを怖れて、多めに発注するのが常態化。気が付けば必要以上に多くの資材をストックするようになっていました。
一方、経営の観点から見ると、在庫を過剰に抱えることは、自由に使えるお金が在庫となって固定化することにほかなりません。つまり、在庫がキャッシュフローを悪化させ、経営を圧迫していくことになるのです。
つまり、在庫に対するとらえ方が、現場と経営者の間では180度異なるということです。
A社の場合、昔ながらの手書き台帳で在庫管理を行っていましたが、それはあくまでも形式上のものでした。実際には、管理部門や製造部門、品質管理部門、資材部門等の各部署間で、それぞれに在庫に対する意識が異なり、正確な在庫数の把握もできていませんでした。
ましてや、実際に在庫の無駄がどれほどあるのか、適正な発注量、在庫量はどれくらいか、効果的な発注のタイミングはいつか、等の情報が会社全体で共有されていませんでした。各部門の担当者が各々長年の経験と勘にたよって発注業務を行っていたのです。
「このままではいけない。なんとかしないと」
A社の工場長は倉庫に積み上げられた在庫の山を見上げて、IT導入を決意しました。
まず手始めに、現状を正しく把握し、部署間の意識のずれを是正するために、在庫管理システムの導入を行いました。
在庫自体の数量をデジタル化することによって、数の「見える化」が可能となります。
組織全体で在庫を正確に把握し、在庫と発注をセットでとらえるという意識が、会社全体に生まれました。
さらに受注や出荷、発注と仕入といった個々のデータをシステムに入力して管理することによって、各部門が協調してより効率的な運営を考えるようになったのです。
A社ではこうして在庫管理システムの導入によって、キャッシュフローが改善し、経営状態を安定化させることができました。
当初、A社の現場はもちろん、経営者も、ITの必要性は認めつつも、導入には及び腰でした。ベテラン従業員の中には、システム化によって、これまでの仕事のやり方が変わってしまうのではないか、自分が変化に対応できるか、と危惧する者もいました。
しかしそれは杞憂でした。A社がIT化に成功した裏には、倍速DXだけの「IT武器化思考」があったからです。